成田-香港



「ごめん!仕事入ったから行けない(^−^)」


悪夢の始まりだった。
婚前旅行に旅立つはずだった俺たちの欧州ラブラブ計画は
あまりにもあっさりとたった一本の電話で終わりを告げた。
くるみんに成田離婚を宣告され、未亡人のようなオーラのまま
ふらふらとさまよいながらCATHAY PACIFICに搭乗し、香港へ。
そんな水を失った魚状態の俺の心に、大量の水が注がれた。眩しすぎる輝き。
うっ!眩しい!なんだ!一体なんだこの光は!


その光はまぎれもなくくるみなんかとは比べものにならないそれであった。
中国人FLIGHT ATTENDANTの黄さん。
黄さんは他の客室乗務員とは一味も二味も違うオーラを放っていた。美しすぎた。
黄さんと俺の距離は、ヒシアマゾンのクリスタルカップの残り1ハロンのように
急速に、そして急激に近づいていった。愛に国境などない。ノーボーダー。
黄さんとの空の共有時間は4時間45分。俺たちには十分すぎた。十分すぎる時間だった。
香港国際空港に到着し、俺たちの愛をデジタルカメラに刻む。


黄さん「えっ!?私なんかと写真!?」
同僚「黄!ほらもっと笑って!」
黄さん「こ、こんな感じ?」


            カシャッ



黄さん。かわいいよ黄さん。
その瞳に今俺だけが映っているように、俺の瞳には黄さんだけが映っているよ。
今はやりの言葉で言えば「萌え」の表情であった。
国旗を越え、経済成長著しい香港にも萌えが存在した。ノーボーダー。


    「行っちゃう…の?」


すまない…俺は…ロンドンに…行かなければ…。


黄さんとの永遠の契りのうれしさと、しばしの別れの悲しさが
胸の中で交差しながらの別れ。お互いの頬に涙はなかった。黄、港町神戸で会おう。